OPEN KITCHEN オープンキッチン

ペアのインタビュー

OPEN KITCHEN_インタビュー「澤井×野儀×林夫妻」】

 

《ここのところ忙しくて、あまり料理が出来ていなかったのですが、このお皿が手もとに届き、よし、やるか。と台所にたつようになりました。このお皿に何をのせようか、考えながら台所ですごす時間、とても豊かな気持ちでいられました。ステキな機会を、ありがとうございました。》

澤井玲衣子、野儀伊代、林夫妻で行われたアートラリーの最終回で、澤井と野儀へ宛てられた林夫妻の言葉。同封されていた作品は美しい皿に丁寧に盛り付けられた料理の写真と、そのレシピ。妻の高野いくのが料理をつくり、夫の林佑紀が撮影した12のレシピにて、三者のアートラリーは締めくくられた。

 

|ラリー最終作品

この三者のアートラリーは澤井→野儀→林夫妻の順番で行われ、2周目を回ったところで終了した。ラリー初回の澤井が送付した作品は10年以上前に墨で描いた花の作品。澤井は自身の生活で起こった出来事や体験をテーマに制作活動を行なっている。今回送った作品も、長年行なっているアレンジフラワーをモチーフにした作品で、今もシリーズとして描いているテーマの一つでもある。

|澤井初回作品

それを受けて野儀が制作したのが、キャンバスに絵の具で描いた花の作品。陶磁器を専攻している野儀が、かなりしっかりと描きこんだ平面作品を仕上げてきた。その裏を見るとドライフラワーが添えられ、何やら文字が書かれている。

  |澤井の作品をうけて野儀が制作した作品

ー私が

◎並べ直す

×ナラベナオス

花の絵

野儀の作品を受け取った林夫妻はキャンバスに描かれた文字を「作品タイトル」として解釈。そしてキャンバスに描いた作品を「風にゆれて笑っている、崖に咲いた強い花」として受け取った。ラリーが終わってわかったことだが、実は「×ナラベナオス」は作品タイトルではなかった。野儀が澤井の作品をうけとって一番に驚いたことは花の描き方。その驚きを「花を描くこと」を改めて考えるきっかけにして、自身の思考を「並べ直した」のだ。そのプロセスをキャンバスに書いたのがこの文字なのだが、はじめにカタカナで書いたら意味深になったので、その上に漢字で書いたのだそう。そうとは知らない林夫妻は「◎並べ直す」「×ナラベナオス」の意味を深読みし、絵画作品にも野儀の意図とは全く別の意味合いを見出していた。

妻の高野はまず、野儀の絵画をテーマに風が吹いている優しい花の絵を描くことに。しかし、描いた作品だけでは崖の淵に咲いている花の強さが表現できないと感じ、風が吹いているイメージからパラパラ漫画を発想。夫の林は野儀が描いた作品に植物の影を投影した写真作品を制作した。

|野儀の作品をうけて林夫妻が制作した作品

2周目の澤井だが、誰かの作品を後に制作するのは今回がはじめて。作品が入った段ボールを開けて作品をひとしきり眺めたあと、2周目も過去作品を送ることに。次は水彩絵の具とコンテで描いた3点の作品を選び出した。   

|澤井の2周目作品

・アレンジフラワーをモチーフにした作品

・20年ほど前に旅行にいったパリの情景をテーマにした作品

・楽譜をモチーフにした作品で、ピアノは子どもの頃からの習い事

ちなみに澤井はOPEN KITCHENのことを「オープンキッチンさん」「アートラリーさん」「おしごとさん」とさん付けしてよんでいる。普段は物静かで口数も多くはない彼女だが、林夫妻からの作品をみているときや、自身が送る作品を選んでいるときは終始ニコニコでお喋りもたくさんしていた。アートラリーで送った4作品は未発表の作品で、中には20年ほど前に描いた作品もある。自身が描いた大切な作品を見てくれた感想が、かたちとなって返ってくるのが、とても嬉しかったようだ。

野儀の2周目の作品は、林夫妻の料理の盛り付けに使用されていた皿の作品。皿の模様は白い土を染み込ませたレース生地を押し付けてつけたもので、自身の意図しないところから自由で美しい模様を表現する試みだった。実はこのとき、野儀は大学の進級制作の真っ最中で、制作について考え込んでいた時期でもあった。そんなときに澤井からのアートラリーが到着。開封時に見た澤井の作品について「ただ素直に心が動いたものを描いているようだった」と述べており、そんな状況も相まって本作のような手法を取り入れる。また、今回のラリーでも作品とともに野儀の言葉が添えられていた。

|野儀の2周目作品

見ることはあいまいで、気持ちにも濃淡があった。とりあえず手を動かすことと、そして、よく分からなくなること。

今回のアートラリーを終えて、野儀と高野にインタビューを行い、先程までにふれた様々な出来事を話してくれた。ちなみに、ラリーを締めくくった12のレシピの作品を作るきっかけは、野儀の皿が好みだったからとのこと。皿に合いそうな献立を考え、そのために買い出しに行って料理をつくったそうだ。

インタビューの際に2人が頻りに口にしていたことが「素直に」という言葉。送られてきた作品を素直に受け取り、そこで感じたものを素直にかたちにして、次に託していく。OPEN KITCHENの展覧会では作品とともに、それぞれの制作秘話を記したノートも作ってもらった。林夫妻のノートにはアートラリーでおこった様々な出来事を素直に楽しんでいる様子が記されており、それはまるで、この三者のやり取りの豊かさを物語っているようだった。

|林夫妻ノート

《送られてきた作品から発されるささやかな信号を頼りに、作り手の感受性に寄り添う時間はとてもスリリングで、そのものに湛えられた気配や人となりに想いを馳せた、とても得がたいひとときでした。筆跡や梱包の仕方にも、その人のパーソナリティーを濃密に感じるようで「オープンキッチン」という不思議な関係性のあわいのうちに、美しい誤解が萌す瞬間を都度想いました。》

    OPEN KITCHEN展の様子とギャラリートーク

|澤井ノート

|野儀ノート

文|吉永朋希(たんぽぽの家)

Scroll