ペアのインタビュー
オープンキッチンプロジェクト2021 インタビュー
ぬか つくるとこ
湯月洋志さん、中野厚志さん
- オープンキッチンに誘われた時の第一印象
コロナの状況を受けて、直接会えなくても楽しめることができないかなと思っていたところだったので、作品を送りあってコミュニケーションができるというプロジェクトは率直に試してみたいと思いました。また、ぬかのなかで「こんな企画があるよ」という風に問いかけてみた時の反応も良かったので、実現できるだろうなという感触がありました。特にぬかは、脱線したり、予定調和にいかないことも楽しみに変えていこうという基盤があるので、このプロジェクトでも脱線がたくさん生まれそうだね、と盛り上がりました。
- 実際に参加してみての感想、第一印象との違い、発見、戸惑いなど
一番初めのラリーでは、ぬかのイベントで使ったダンベルを送ったのですが、これは、作品というよりも、ぬかの日常の一部を切り取って送ろう、文化祭で残った空気感みたいなものを送ってみようという思いから選んだものでした。ダンベルが大きいので、発送する段ボールも大きな箱になってしまい、それを見たぬかびとさん(ぬかに通っているメンバー)たちが「何をしてるの?」と気になりはじめ、「とりあえず絵でも描こうか」と箱へのペイントがはじまったり、まさにぬからしい広がり方だなと感じました。
- (ラリーの写真を見て振り返りながら)その時々の感想
1周した作品が返ってきた時は、ぬかびともスタッフもまだ企画がよく分かっておらず「大きな箱を京都のアーティストに送った」という記憶だけ残っていたので、まさかそれが戻ってくるとは、とみんなびっくりしていました。そのワクワク感をみんなで共有しよう、という空気から、施設の勝手口から部屋までおみこしでワッショイワッショイと箱を運ぶことになりました。そういう、物が届いたとか、届くまで待つとか、箱を開ける前のワクワクさみたいなものがとても印象に残っています。
届いた作品に関しては、2週間くらいは触らずに施設の中で展示をしていました。ぬかはみんなでかかわっている場所なので、(どんな風にラリーを返すか)スタッフが誘導するより、メンバーそれぞれの反応を待ちたいという思いがあり、飾って反応を見ていました。ちなみにぬかではこの待つ時間のことを「発酵」と呼んだりします。
この2週間のあいだは、みんな作品を見たり、(森川さんから届いた)パペットを使ったりはしていて、ただ、なかなか次のアクションは起きなかったんですが、あるスタッフがパペットの頭に金色のリーゼントを付けた瞬間、みんなも「こんな感じでいいんだ」「手を加えていいんだ」と理解したようでした。ぬかではなにか行事で物を作ったら、次の行事でもそれを素材にリメイクして、みんなで新しい物を作ったりするのですが、「今回のラリーもそれと同じようにみんなで作り変えていって良いんだ」という風に思ったようです。そこからはそれぞれの人たちが、届いた作品を自分が楽しめるものに組み変えていったように思います。
- いつもの制作や活動との違い
はじめは、特にスタッフには、どうしても構えてしまうというか、相手の表現に対してしっかりアンサーを返した方が良いのかな(例えば、絵本にしてみたりとか)みたいな思いも少しあったように思うのですが、ぬからしく、自然とそこにあるということを出すにはどうするかを考え、最終的には普段と同じようにものづくりを楽しめたと思います。初めからあまりかっちりと決めすぎるのではなく、脱線というか、安全に道をそれていける、楽しそうな方向があればそっちに行けるのであれば、それはそれで良いかなと言えるような普段の状態でかかわれることを大切にしました。
- 一番印象に残っている瞬間、やりとり
パペットは特に印象に残っています。作品としての面白さはもちろん、それを装着して遊べる、といったものが3週間ぬかにあったのはアートラリーならではの経験だと思いました。ぬかには、自宅では喋るけど、施設では声を出さずに身振りなどだけでコミュニケーションを取る、という人がいるんですけど、特にその方はパペットが気に入って、それを相棒のように使ってコミュニケーションを取っていました。
- 一緒にラリーに参加した、ほかの2名の作家への感想
作家さんたちは1人ずつだったのに対し、こっちは集団で参加させてもらったので、どう受け取られたかな、どんな印象を持ったかな、大丈夫だったかな…という思いがあります笑。どこまでちゃちゃ入れして良いかわからず、試しながら、というところもあったので。受け入れてもらってありがとうというのが素直な気持ちです。
- 今回参加してみて、その後の生活や制作などの活動に、何らかの影響があったか
「まだやりたい」という感じは残っていますね。まだできるというか、みんな(ラリーへの)免疫力がついているので、また突然作品が届いても楽しんで返せるだろうな、いう感じ。
- 今後、こういうことができれば面白いかもしれないというアイデアなど
今回のラリーは一旦終了しましたが、企画外でも独自に勝手にアートラリーをしてみたいです笑。例えば、いつ届くかわからないアートラリーみたいな、予告なしで作品を送り付けるとか。さらに、その作品をまた別の場所に送ってもらって、そしてそれがまたいつかぬかにもどってきたりして…。もしかしたら、忘れたくらいの時期に、たんぽぽの家に勝手に作品を送らせてもらうかもしれません笑。
- 最後に一言
ぬかのコンセプトとして、新しい風をいれる、「ぬかに空気を入れる」というのはすごく大事にしている部分なんですが、アートラリーの、会ったことのない誰かと何かをやり取りするっていうことは、ぬかびとにとってもスタッフにとってもすごく良い刺激になったと思っています。ワクワク感とドキドキ感と、どうすれば良いんだっていう迷いが入り混じった気持ちを味わえたのはすごく良かったです。
オープンキッチンプロジェクト2021 インタビュー
美術家
安枝知美さん
- オープンキッチンに誘われた時の第一印象
オープンキッチンには前年から参加しているんですが、一番最初は同じアトリエをつかっている渡辺さん(アートラリー参加者の渡辺千明さん)から「こういう企画があるらしくって、参加しようと思うんだ」と教えてもらって、私もやってみたいなと思って参加しました。アートラリーっていうことなので、なにか作品を送りあって、加筆したり、新しいものをつくるのかなとは思いつつ、詳しくは分からないまま参加しました笑。
- 実際に参加してみての感想、第一印象との違い、発見、戸惑いなど
初年度は絵画作品を送ってもらったので、今年も小さい作品や、一人の人がつくった作品が送られるイメージを持っていたんですけど、おっきな箱で、特に説明もない作品が届いたので「どうしよう」「これはなんだろう」みたいな戸惑いが一番強かったです笑。そのあと、寺岡さんが(ぬか つくるとこの)写真や動画を送ってくださったので、それを見て「あ、去年とは違うんだ」ということはすごく感じました笑。
- (ラリーの写真を見て振り返りながら)その時々の感想
最初は段ボールに描いてる絵からの方が入りやすかったので、その絵や文字とかで絵を描こうかなって感じで描いていました。そのあと、送られてきた写真や動画を見て、ぬかのみんなが面白そうにしている様子がうつっていたので、勢いやパワーのある感じでできたらいいなと思って、オイル転写という版画の技法(ガラスの板に油絵の具で描き、紙に転写させる技法)で作品をつくりました。
ぬかさんの、何人かの方たちが一緒につくった作品を一人で解釈するっていうのは思ったより大変でしたね笑。受け止めきれない、みたいな。生活の感じが送られてきたって言うか、実際に施設で使ったものが送られてきたんだな、っていう感じもあり、「これを作品化した方がいいのか?」っていうのもちょっと思いました。でも私は絵を描くのがメインなので、そこからそんなはずれなくてもいいかなとも思ったりして、1回目は普通に絵を描いて送りました。
2周目は新しく来たものたちにびっくりしちゃったっていうのが強くて笑。「これは…また、何だろう」「いっぱい玉が来た」みたいな。私の中ではラリーって重ねていくイメージがあったんですけど、ものが増えすぎて、なんかまた初めからラリーがはじまる、みたいな気持ちになっちゃって、1週間くらいは呆然としてました笑。で、ここから私がまた新しくものをつくるっていうのも変やなって思って。それやったらこのよく分からないものたちから作品をつくった方がいいかなって思ったので、重ねて動物や生き物をつくりました。
自由な感じで返されたので、私ももうそうしよって。一周目に自分がしたことを考えるはのやめようって思って笑。そうすることでやっと手が進められました。「これ、ラリーになってんのかな?」とも思いつつ。そういう意味では2周目は結構つらかったかもしれません笑。でも、このつくり方は私にとっては新鮮だったので楽しかったです。
- いつもの制作や活動との違い
普段は研究しながらつくっていく、同じようなことを繰り返して、ちょっとずつ進めていくっていうのが自分のスタイルとしてあるので、制作の際には「これをこうしたら恐らくこうなるだろう」ということを先に考えて冷静につくっていくタイプだと思うんですが、今回のような、よく分からないけどつくってて楽しいなー、みたいな感覚は久しぶりに感じました。
- 一番印象に残っている瞬間、やりとり
2周目の時に「つくんのおもろいな」と思えたのがすごいよかったですね。つくっててあっという間に時間が経って、感覚的に動いてった感じがあって。例えば、特に理由はないけど、作品の上になんかふわふわしたもの載せたいなーと思って、家で使えるものを探して、クイックルワイパーを載せたらかわいいのができた、みたいな、その時間が楽しかったです。
- 一緒にラリーに参加した、ほかの2名の作家への感想
ぬかさんが最初に送ってきてくださったというラリーの順番が面白かったと思っていて。でも、私とか森川さんスタートならどうなっていたんだろうみたいなのも気になりますね。あと、森川さんは真面目に、全部受け止めてつくったんだろうな、っていうのがすごく感じられて。私の絵や、段ボールに描かれた絵の色とか、そういったものから作品を構成してはって。そういうのを見て私もちょっとまとめやなあかんな、という気持ちにもなりました笑。
- 今回参加してみて、その後の生活や制作などの活動に、何らかの影響があったか
もともと自分は作品の背景を描くってことがうまくできない、何を描いたらいいか分からない、っていう思いがあったんです。そんななか、昨年のラリーで送られてきた作品に、一見すると意味がなさそうな線があったりして、そのよく分からない線を自分の絵画の背景に取り入れてみようと思って、なんとなく真似して線を描いてみたりしていたんですけど、そこから、背景を描くことに抵抗がなくなったりしました。
今年は、自分は「ラリーしなきゃいけない」って思って送ったけど、ぬかさんはそれを超えたものを送ってきて、でも楽しくて送ってきたんやろな、というのは伝わってきて。自分の作品を作る時とかも、「こうして組み立てる」みたいなことは大事やけど、それを超えて「こうしたい」「こういうのが楽しい」というのを作品に入れる、というのを忘れてたな、と思って。その後の作品作りでは「私はこれをしたいと思ってるんやから、しちゃえ」みたいな気持ちになりやすくなったっていうのがあります。普段の制作ではこれを表現するためにはこれをしないといけないな、というのを考えながらつくっていくということが多いんですけど、ぬかさんとの制作が終わって自分の制作をする時に、それを考えすぎないようにして、「絵の表面に出てくるものがどんだけ変でも、自分の感覚としてこれが自分のいま表現してみたいと思っていることに近ければ、これを第一優先にしよう」みたいに思えるようになって。もちろんそれは絶対持っとかないといけないものなんですけど、見失いがちなものでもあるので。そういう影響はあったなと思っています。
- 今後、こういうことができれば面白いかもしれないというアイデアなど
今回のラリーではぬかさんの写真を見るまでは何をつくったらいいのかなかなか考えられなかったので、こういうまったく分からない作品が届く場合は、ラリーする相手の説明があちょっとはあってもいいのかなと思いました。特に個人じゃなく、団体の参加者の場合は、その団体のみんなの雰囲気とかを知れるといいなと思います。言葉の説明じゃなくても全然いいと思うので。
あと、今回はつくることが純粋に面白かったので、アートラリーをしたうえで、そのグループのメンバーが実際に集まって、ワークショップ的に一緒にものをつくる機会みたいなのがあると面白いと思いました。難しいワークショップじゃなくていいと思うので、例えば、簡単な素材だけ置いておいて、みんなでどんなものをつくるのか、みたいなことがあったら面白いかもと思いました。もちろん、初対面の人とコミュニケーションをとるのが嫌いな方もいると思うので、どこまで実現できるのかっていうのはあるんですけど。
- 最後に一言
たくさんお話しできたので、大丈夫です笑。
オープンキッチンプロジェクト2021 インタビュー
京都市立芸術大学工芸科1回生(参加当時)
森川桜帆さん
- オープンキッチンに誘われた時の第一印象
私は自分から「オープンキッチンに参加したい」と(ディレクターの)寺岡さんに声をかけさせてもらったんです。大学の授業で寺岡さんがオープンキッチンについて紹介してくれた時に、アートでコミュニケーションをとる、というテーマにとても惹かれたので。コミュニケーションは言葉と言葉で対面で行うものであって、アートはそれとは違って、作品があって、それとは別に鑑賞する人がいるものなんだっていう固定概念があったんですけど、アートという場を通じてコミュニケーションをすることができるというアイデアが魅力的だなと思いました。
- 実際に参加してみての感想、第一印象との違い、発見、戸惑いなど
ラリーをする相手の顔も知らないし、分からないことが多いはず、というのは予想していたんですけど、予想以上に分からないことが多いと思いました笑。あといい意味で発見したのは「アートのかたちって自由なんだな」と感じられたことです。受験の美術で頭が固まってしまっていたんですが、みなさんのラリーの作品を見ていて、心から楽しんでつくれるものもアートなんだな、と自分のなかのアートのかたちがいい意味で崩れたなと思っています。あと、大学では自分が思ったことや内面を具体的にかたちにしていくという作業を学んでいるんですが、アートラリーのように、他の人から発信された作品に反応して、ぽんっぽんって思いついたものを作品にするのも面白いなと思いました
- (ラリーの写真を見て振り返りながら)その時々の感想
はじめは箱の大きさにびっくりして、そこからどんどん物が出てくるっていうのが楽しかったです。その作品1つ1つが連動していて、丁寧につくられてる感じがしたので、「考えて返そう」と思いました。何を返すかを思いつくまでは実は結構時間がかかって。1週間と半分くらいは部屋の中に作品をバーって並べていました。頭が結構かたい方なので、段ボールに書いてある文字を一回全部ノートに起こしたりしてみて笑。こうやってパワフルに作品が来てもらえたのは、自分の中のかたさが柔軟になるきっかけになったので、すごくよかったです。
(ぬか つくるとこの「ダブルシャワー」と書かれたバーベルの作品を見ながら)私、これを「シャーク」だと思って、なのではじめにサメの人形を作って送ったんです笑。特に正解を求められてるわけじゃないとは分かってたんですけど、やっぱ1周目は言葉の意味とか考えちゃって。
バーベルという触れられる作品が届いたので、自分も身に着けたりできるもので返したいなと思ってパペットの人形をつくりました。なんか熱量みたいなものを伝えたくって中には綿を詰めたんですけど、結果としてはあたたかい、ふわふわした状況になってしまいました。「熱い」を伝えたかったけど「あったかい」になっちゃったんですよね笑。
- いつもの制作や活動との違い
普段、作品をつくるってなると、手を動かせる範囲で小さくものをつくることが多かったんですけど、大きいものが来てくれたことで、自分の可動域が広がった気がします。また、バーベルみたいな、実際に持ったりできるものが届いたりして、「鑑賞」するだけじゃなく、実際に持ったり触れたりすることって大事だな、と気づいたりしました。あとは、自分は予想外のことがあるとてんやわんやするタイプだったんですけど、それも含めて「作品づくりって楽しい」って思えて、特に2周目は「こう来たんや、じゃあなに返そうかな」ってワクワクできていたから、自分でもよかったと思います。
- 一番印象に残っている瞬間、やりとり
一番衝撃だったのはやっぱり最初の荷物が届いた時。そのスケール感にワクワクしました。あとは、展示を終えてみなさんで会場に集まった時に、安枝さんやぬかさんとお話しできた時に「あ、実在するんだ」じゃないですけど、この方がこの作品をつくっていたんだな、と感じられたことがよかったです。きっとアートラリーに参加していなかったらみなさんと交わることもなかったんだなあ、と。
- 一緒にラリーに参加した、ほかの2名の作家への感想
自分は普段は刺激のある日々を送っているタイプじゃないんですけど、アートラリーを一緒にしていただいた期間は、ワクワクしたり「どうしよー」みたいな刺激があり、新鮮で楽しかったです。一緒にアートラリーしてくださってありがとう、と伝えたいです。
- ラリーに参加してみて、その後の生活や制作などの活動に、何らかの影響があったか
ぬかさんと安枝さんの作品を見て、素材そのものを楽しんでいる感じがすごい伝わってきて。私自身も染色のアイデア、草稿を考える時でも、筆で書かなくても、いろんな素材でアイデア出しをしていってもいいんだなって思えました。もしそれを周囲から「珍しいね」って言われても、自分がやりたいと思ったんだったらやってもいいと思うし。いろんな意味で柔軟性をゲットできたかもって思っています。
- 今後、こういうことができれば面白いかもしれないというアイデアなど
ラリーをしている間は、ラリーをしている相手に会えたらなと思っていて、最後に会う機会をもらえてとても嬉しかったので、今後もアートラリーが続くんだったら、そういった、会える機会があってほしいな、と思っています。
- 最後に一言
アートラリーは自分の中ですごいいい経験だったので、また自分がもうちょっとレベルアップした時に、もっかい一緒に、アートラリーってかたちじゃなくても、みなさんと作品をつくったり、何かをお手伝いをしてみたいなと思います。あとは、自分が参加するしないに関わらず、アートラリーという企画自体も毎年、続けていってほしい、その活動を見ていきたいと思っています。