OPEN KITCHEN オープンキッチン

ペアのインタビュー

アートラリー インタビュー

お話を聞いた日 2022/5/1 くもり

作家 植田さん

場所 京都 出町柳にて

「(他の人の)作品に手を加えることに抵抗があり、どう介入してよいか躊躇した」

3人の作品の途切れ目がわからないくらい、穏やかでユーモラスな雰囲気がラリーの作品に一貫していたので、植田さんの初回ラリーの際の感想は少し意外なものだった。

植田さんは京都市芸大大学院を修了後、兵庫県西脇市の会社でテキスタイルデザインの仕事をしている。大学時代の制作の日々から少し距離ができ、社会人として新たなステップに挑戦しているタイミングで、アートラリーに参加した。手を動かしたいという気持ちもあり、週末の休みを利用してラリーの作品制作に取り組んだそうだ。

とはいえ、アートラリーのスタイルは、これまでの一人で行う制作と大きく異なる手法だったので初めは緊張があったという。送られてきた前田さんの作品があんまりにも良くて、どう手を加えたら良いものか・・・と考えた結果、次に送る作家のはるぴさんが作りやすいように、その土台を作る気持ちでまず始めてみたという。前田さんの絵のリズム を丁寧に聞き取り、植田さん独自の言語に少しずつ変換して話すようなかたちでラリーが開始された。

初回のラリーを終えた2回目からは、少しずつ自分を出してみよう!もっと好き勝手にやってみよう、と手を動かし始めることができたそう。

曲線に切り抜かれた紙パーツ(植田さん作成)から派生して生まれた渋谷さんの「なっとう」の絵を受け、観音開きのグレー紙に「うま」のレリーフを制作。「これは、しりとりにしようと思って。」

(頭の10センチ上くらいを指しながら)「ここらへんで考えるというか、ここで あっ と思う意識」

制作の肝となるポイントを、そう説明する。

普段の生活で瞬間に立ち現れる現象や状況の、キラッとする瞬間を目撃できること、その世界に一続きである自分を発見することの喜び。

意識や感覚下における、不明瞭だがはっきりとあるその感覚を明らかにしていくこと。

今回のアートラリーでは、少しその手触りを思い出せる時間を作ることができたという。

3月の展覧会で植田さんは初めてラリー相手の一人である前田さんと対面することができた。「交わす言葉数は少ないけど、すごく微細に情報や雰囲気を感じ取っている、そんな思慮深さを感じた」この時のことを植田さんはそう述懐している。

お話を聞いた日 2022/5/15 くもり

作家 はるぴさん(渋谷さん)

場所 オンラインにて

私はインタビューの時に知ったのだが、はるぴさんという名は本名ではなく、本名以外を使いたい色々な場面で使用している名前なのだという。

アートラリー参加時は小学6年生だったはるぴさん。普段の造形活動について聞いてみると、勉強に疲れた時に漫画やアニメのキャラクターの模写やデッサンなど、自由に描くのだという。インタビュー中の画面の中の渋谷さんの後ろにも、漫画がずらっと並んでいる。アートラリーではそうした普段の描画スタイルとは異なる、水彩絵の具を使ったおおらかな表現が多く見られたので、これはとても新鮮な一面だった。

前田さん→植田さん→はるぴさん の順で回ってきたラリーの最初の開封時は、動画撮影もあり緊張しつつ、「開けてみたらすごい綺麗なものが色々あって、想像していたよりも量が多くて、わあ~、、すげえ~~、、!となりました」と振り返る。

どう進めようか迷う気持ちはあったものの、自由にやればいいかなと赤の細長い紙を加工したところ、意外と他の人の作品の雰囲気を壊さずに作れることに気づき、そこからはどんどん手を動かすことができたと話す。他の人の作品の雰囲気を維持する意識は、植田さんと共通するところがある。

描画表現においても、ラリーの作家からの影響は大きかったようだ。夏休みの課題以外はあまり使わないという水彩絵の具の使い方にも表れている。今まではベタ塗りや大きなストロークで描いていたが細かくちょんちょんと色をのせると立体的に綺麗に見えることを発見し、すぐに実践したそう。今回は2名の作家とのやりとりではあったが、それぞれの作風からの影響というよりは、目の前の作品1つずつに対して、いいやん!と発見したものを真似したという。

その過程の中で、作品の部分が他の人のものか自分の手によるものか今となっては思い出せないところもあると話す。はるぴさんが本当にリラックスして自由に取り組めていた様、他の作家のリズムに楽しんで乗り込む様が想像される。3人の手つきがラリーの中で溶け合う瞬間が面白い。

自分自身を振り返ると小学6年生といえば、無意識に生成される制約が表現の中にも表れる時期だと思い返すが、はるぴさんはそこにこだわらず縦横無尽に手を動かす姿勢が印象的だった。ものづくりとはこれまでどんなふうに関わってきたか聞いてみると、小さい頃から工作が好きで、定規で測って箱を作ったりと親しんできたと話す。すごく絵にはまっていた時期が少し前にあったが、今はそこまでではなく、時々描くくらい、とも。観察と表現の巧みさはもちろんなのだが、実生活におけるバランス感覚の良さに驚かされる。

『はるぴ』と本名の使い分けの感覚についても、その飄々とした聡明さを感じた。「理由はあんまりなくて、なんとなく」。

お話を聞いた日 2022/6/29 晴れ

作家 前田さん

場所 たんぽぽの家にて

たんぽぽの家で活動する前田さんは、展覧会での発表や企業案件、ワークショップなどマルチに展開されている作家である。曜日ごとにやる仕事の内容が決まっており、今日はショップの商品の制作、今日はパッケージイラストのお仕事、今日は刺繍、と毎日異なったタスクに取り組む。

アトリエのスタジオでは◯ △ の形が画面いっぱいに散りばめられるシリーズや、植物や季節のことがらをモチーフに描いた絵画を、いずれも水彩絵の具の着彩とGペン墨の線描を用いて制作している。

▲前田さんの普段使われている画材セット

ここ数年で「前田さんのスタイル」ともいうべき作品スタイルはしっかりとした地盤を築き上げながら、画面の中における緩急や水彩と墨が織りなすにじみの妙は静かに進化を続けている、とスタッフの吉永さんは話す。

アートラリーに参加していた時期は、日々の暮らしで見つけたもののほか、植物の図鑑のページをモチーフにしていた時期であった。

図鑑を見ながら描くのだが、本を押さえてないとパタンと閉じてしまうので、最初はページをコピーしてもらったりしていたそうだが、目玉クリップを栞のように挟むようにしてからは自分でモチーフを選んだらすぐ描けるようになったそう。描画技法に限らず、ちょっとした工夫により制作スタイルは日々進化しているのだ。アートラリー/記録ノートの制作時から随分時間が経っていたが、前田さんは図鑑の中から当時選んだモチーフを手早く見つけ「これ」と指差し教えてくれる。軽やかで心地よい緩急の表現は前田さんの作品ならではだが、花の色の置き方や、茎の枝垂れる角度など、部分を丁寧に観察して描写していることが見て取れる。  

▲前田さんの図鑑と、植田さんの記録ノート。思いがけずここで答え合わせができた。

ラリーをした他の作家の作品について聞いてみると、渋谷さん制作の「なっとう」をお気に入りの作品に挙げられた。大好きな納豆を食べた日のことを思い出したそう。

そのほか、渋谷さん制作の粘土作品については、「何これ?」。植田さん制作の抽象的なドローイングには、「川」「パンにジャムをぬりました。」と独自の見立てを行っている。

案外と、他の作家の作品のことは気にしすぎず、いつも通り自らのスタイルで制作に取り組まれたことが窺い知れ、このラリーの雰囲気の一端を垣間見たようで面白かった。

「はるぴさん、前田さんの描き方に影響を受けたらしいですよ」と伝えると、前田さんはニコニコと微笑んだ。

夏の夕方、人けがなくなりすっかり静かになったぬるい海のような。

穏やかに打つ波は水面を伝ってさわさわと二人に作用していた。

はるぴさんはその後押しを引き受け、好奇心豊かに潜り込み、共振した。

植田さんは前田さんの息遣いを受け、そっと寄り添うようにその余地を拡大し、運動場を作ってみた。

慎重に様子を伺ったり、広がりを持たせるため見立ててみたり、作品に協調しながらも新たな誘発を仕掛ける、あやとりやおままごとに似たやりとりを経て、繊細に調和した小さなキラキラをそこここに見つけるような作品群が仕上がっていった。透明度の高い遊び場、とでも言えようか。

前田さんの制作現場を見て、そののちラリー3名の作家のそれぞれのお話をもう一度振り返ったときに、そのような景色が立ちのぼった。

それぞれの波をそれぞれの形で聞き取り合う、穏やかで思慮深いやりとりがこのラリーでは行われていたように思う。それはこの3作家だったからこそ成し得たのだろう代え難い、稀有なやりとりであった。

書いた人 山本紗佑里

インタビューにあたりお世話になった方

たんぽぽの家の皆さん

寺子屋塾 荒井さん

OPEN KITCHEN企画者 京都市立芸術大学 永守先生

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