今までの展覧会
今回のアートラリーでは新型コロナウイルス感染症の影響をうけ、ギャラリーでの展覧会が開催できなかったため、ラリーに参加してもらった一般参加者の自宅にて、プライベートな作品展示を実施しました。それぞれのラリー参加者のもとには自分が創作に関わったペアの最終的な作品が、什器にもなる梱包材とともに箱詰めされて到着。参加者たちはそれを家の思いおもいの場所に飾り、日々の暮らしの中で作品を楽しみました。また、その様子はインスタグラムを通じて発信されました。
平田さん×Rさんの作品は、奥様と小さなお子さんの3人で暮らしている荒木さんのご自宅に飾られました。人の顔を模した石の作品は、ジャングルジムやトランポリンなどのあいだに静かに鎮座し、一見すると祭壇のような神聖さもありつつ、でもおもちゃのようなチープさもありつつ、独特の表情をしていました。
鮎川さん×平井さんの作品は、京都で学びの場づくりの活動をされている荒井さんのご自宅に飾られました。ベッドの横にペットボトルボーリングの作品が並べられた光景は何とも異化された空間を感じさせ、また、紙に書いてある「サッポロポルチョ」という謎の文字が笑いを誘いました。ちなみに、荒井さんは子どもたちともボーリングで遊んでくださったそうです。
松岡さん×味波さんの作品は、オープンキッチンの企画者でもある哲学者、永守さんのお部屋に飾られました。ソファの傍らに、サイドテーブルのような什器とともに置かれた手帳の作品は、はじめからそこにあったかのように部屋にマッチし、ドローイングを通じた二人の交流が、今そこで生まれているような自然さを感じさせました。
黒川さん×小松さん、中森さん×岡本さんの2ペアの作品は、2名のアーティスト、安枝さん、渡辺さんが共同で使用しているアトリエの中に飾られました。平素から安枝さん、渡辺さんの作品がひろがっているアトリエの中で、壁に沿って並べられた漫画や凧の作品たちは、だんだんと部屋の中に漂い出ていくようで、どこからどこまでが誰の作品なのか分からない不思議な空間が生まれていました。
加納さん×水田さんの作品はアーティストの高野さん、林さんご夫妻のリビングに飾られました。ご夫妻が方々から集めてきたアート作品や珍しい品々が並ぶ中に、ちょこんとおさまった作品は、風景になじみつつもしっかりとした存在感を放ち、まるで新たな家族の一員となったようでした。
ギャラリーでの展覧会の代替として考えられた今回の展示でしたが、それぞれの参加者が自分なりの方法で作品との付き合い方を実践してくれたことにより、作品の見え方も大きく変わりました。アートを介したコミュニケーションを通じて分からなさを楽しむアートラリーですが、この展示によりさらに楽しい一ひねりが加わったように思います。
(文:大井卓也/写真:佐伯慎亮)